LVMHのティファニー買収騒動まとめ

ティファニーといえば、(その昔)オードリーヘップバーンが演じるホリーも憧れた ラグジュアリーなジュエリーブランド。
上品で愛らしく、可憐な女性をイメージするようなジュエリーを展開しています。
……が、2023年2月現在ではオンラインストアのトップページに“ロック”と“ハードウェア”が並ぶティファニー。
近年はモードでミニマル、ジェンダーレスにシフトチェンジを見事に演出しています。
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TIFFANY&Co.

2023年3月7日に発売が決まったNIKEとのコラボレーションにも注目が集まっていますね。
オールブラックヌバックの“エアフォース1 ロー 1837”(Air Force 1 1837)です。
AF1の誕生40周年を記念したモデルで価格は400ドル(約5万1000円)の予定。踵には両ブランドロゴを刻印したシルバープレートが光ります。
ティファニーブルー※3のスウォッシュがラグジュアリー感半端ない……!
ちなみに、NIKEからは過去にもティファニーを感じさせるカラーリングのスニーカーはいくつも発表されてきましたが、正式なコラボは今回が初‼そもそも、ティファニーはスニーカーの展開自体がはじめてなのです。

TIFFANY&Co.

先のフェンディとのコラボレーションでは、同じくティファニーブルーでドレスアップした“バゲット”が記憶に新しく、なんだか最近話題になることが多いティファニー。
(オープンハートやハートタグにときめきのリバイバルは正直ないのですが)今更ながら「…ティファニーって やっぱり素敵だなぁ」と思うこの頃です。

2021年より世界最大の複合企業LVMHに属し、ホットトピックの続くティファニーが、ひと悶着ありつつも買収によりグループ入りすることになった当時を振り返ってみました。

LVMHとティファニー

LVMHとは

1987年にLOUIS VUITTON(ルイ・ヴィトン)とMoët Hennessy(モエ・ヘネシー)が合併して誕生した世界最大のコングロマリット(複合企業)LVMH(モエ・ヘネシー・ルイ・ヴィトン)。保有ブランドは75にのぼり、2022年には過去最高の年間売上高792億ユーロ(約11兆1600億円)に達した。
ベルナール・アルノー氏が一代で築き上げた巨城。

ベルナール・アルノー氏-LVMH

ベルナール・アルノーとは

Bernard Jean Étienne Arnault(ベルナール・ジャン・エティエンヌ・アルノー)は1949年3月5日生まれ、フランスの実業家。
2022年12月には世界長者番付で、イーロン・マスクを抜き(一時的に)世界一位となった大富豪である。
「ファッション界の帝王」は70歳を超えた今も現役で世界最大企業のトップに君臨している。

6つのメゾン

LVMHは6つの事業部門(メゾン)を持ち、M&A(合併と買収)によりその力を年々強めています。
ワイン&スピリッツ
モエ・エ・シャンドン/ドン ペリニヨン/クリュッグ/ヴーヴ・クリコ/ルイナール/ヘネシーなど
ファッション&レザーグッズ
ルイ・ヴィトン/ロエベ/フェンディ/セリーヌ/クリスチャン ディオール/ジバンシィ/ケンゾー/リモワなど
パフューム&コスメティックス
パルファン・クリスチャン・ディオール/ゲラン/パルファム・ジバンシイなど
ウォッチ&ジュエリー
ショーメ/ブルガリ/タグ・ホイヤー/ゼニスなど
セレクティブ・リテーリング
ル・ボン・マルシェ/DFS/セフォラなど
その他の活動
レゼコーなど

主要部門はファッション&レザーグッズで、全体売上の半数ほどを占めていますが、ファッション事業はトレンドや社会情勢、気候などによる影響を非常に受けやすく、この事業のみで世界最大規模のコングロマリットを運営していくことは困難であるといわれています。
しかし、安定した売上と利益を確保するワイン&スピリッツ部門がこのファッション事業支える大きな柱となっているのです。
LVMHの企業としての強みは、攻めと守りを有した最強の布陣にあるといえるでしょう。

M&Aによりグループに吸収したブランドの多くは、新天地LVMHにて大きく売上・収益に貢献しています。
マネジメントやプロモーションの徹底改革、グループ間での技術提供によるクオリティアップ、コラボレーションによる相乗効果でブランドをさらに成長させていきます。

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Tiffany&Co.(ティファニー)とは

ティファニーは1837年に創業された米国発ラグジュアリーブランド。
世界に約320の直営店を展開しており、2019年1月期の売上高は44億4210万ドル(約4797億円)のアメリカ随一のジュエリー企業である。

TIFFANY&Co.

LVMHはなぜティファニーを買収したかったのか?

LVMHのウォッチ&ジュエリー部門は、6つのメゾンの中でも新しく、かつ事業規模はファッション&レザーグッズ部門の1/4ほどにとどまっていました。
もちろん、すでにグループ内の一流ブランドであるBVLGARI(ブルガリ)、CHAUMET(ショーメ)、FRED(フレッド)、HUBLOT(ウブロ)、TAG HEUER(タグ・ホイヤー)などが肩を並べていますが、アルノー氏はこの部門を大幅に拡大させるため、この圧倒的な世界的知名度の老舗をファミリーに加えたかったのです。

アルノー氏は2019年、買収合意の後にWWDJAPANのインタビューで以下のように話しています。

以下WWDJAPANより引用

「私は『ティファニー』を深く敬愛している。長い歴史を誇るアメリカのラグジュアリーブランドであり、そうした意味では唯一ともいえる存在だ。ブランドを次世代に向けて磨き上げるのは時間が掛かるものだが、米国で上場していると短期的に利益を出すことを強く求められる。もちろん私も利益を上げたいと思っているが、ブランドの魅力を最大限に引き出すには長期的な視点が必要だ。10年後にブランドがさらに発展しているようにするには何をするべきなのか。それをしっかり考えて行動すれば、利益は後からついてくる。経済的な成功はあくまでも結果であり、それが目標ではない」

「株主にせっつかれて辟易してない?今後のことを考えたら うちに来た方がいいんじゃないかな、生き残るには新しいものが色々必要だよね。」てことですね。
ティファニーが長きに渡り積み上げてきたラグジュアリーなイメージと豊富なアーカイブ、その魅力的なジュエリー企業を傘下に加えれば、リシュモン(カルティエ、ヴァンクリーフ&アーペルを保有)優位のジュエリー業界へ大きな影響を与えることができるはずですから。さらに、映画「ティファニーで朝食を」の舞台となったニューヨーク5番街の本店をはじめ、124店を構えるアメリカでの市場獲得はヨーロッパを拠点とするLVMHにとって重要事項です。

LVMHによるティファニーの買収騒動まとめ

※日本円換算は当時の金額です

買収提案

2019年10月初旬
LVMHがティファニーに対しておよそ145億ドル(約1兆5660億円)、1株当たり120ドル(約1万2900円)での買収を提示

買収合意

2019年11月25日
およそ162億ドル(約1兆7496億円)、1株あたり135ドル(約1万4580円)での買収合意を発表

価格引き上げ後の162億ドルはLVMHにとっても最高額での買収で、かなり気合をいれた取引になるのは明らかでした。アルノー氏、やる気です。

同年12月5日には「ティファニー」のニューヨーク5番街本店をベルナール・アルノーLVMH会長兼最高経営責任者(CEO)が訪れました。ここまではかなり順調、相思相愛といっていいでしょう。

ちなみに、買収合意直後の11月29日付でティファニーのフランチェスコ・トラパーニ(Francesco Trapani)取締役が退任しました。のちにトラパーニ氏は「買収が原因ではない」と語りましたが、やっぱり経営陣はテコ入れするのかな…と感じた一件でした。

買収再考浮上

2020年6月初旬
アメリカの情勢悪化(新型コロナウイルス蔓延※1やジョージ・フロイド氏死亡事件※2など)
買収完了までにティファニーが借入金返済可能かどうかを懸念

※1 新型コロナウイルスは2019年12月から世界各地に拡大していった。2020年3月11日にパンデミック(感染症世界的流行)が宣言された
※2 2020年5月25日アメリカのミネソタ州ミネアポリス近郊にて警察官に不適切な拘束方法によって殺害された事件。人種差別抗議(BLM)運動や暴動が全米で多発した

あらら…合意していたはずなのに、なんだか雲行きが怪しくなってきましたよ。

買収断念発表

2020年9月9日
LVMHが買収を断念すると発表
LVMHは「フランス政府が(2019年に導入したデジタル課税による)米国関税について対応するため、仏外相から買収を2021年1月6まで延ばすよう要請を受けた。そのため現在の情勢では従来の合意内容である2020年11月までの買収完了ができなくなる」と主張
ティファニーは「合併契約不履行は不当、締結通りの買収完了を求める」としLVMHを提訴

翌9月10日、LVMHが反訴、ティファニーの提訴は正当な理由なく不当であり、MAC条項※3に抵触すると主張
「新型コロナウイルス禍の危機管理対応が適切でなかった」
「2020年上半期の業績不振は経営陣の判断不適切によるもので、LVMHは損失時期にもティファニーに対し配当金を分配していた」

対するティファニーは以下のように主張した
「コロナや米国情勢はMAC条項にあたらない」
「業績不振とされた2020年上半期のティファニー経済状況は好調だった」

※3 M&A契約におけるMAC条項とは
以下M&A情報 MARR Onlineより引用

MAC条項は、M&A契約締結からクロージングまでの期間に対象会社に「重大な悪影響」のある事象が生じた場合に、買主がM&A取引から撤退できる権利(Walkaway Right)を定める条項である。米国型のM&A契約では、MACの不存在を取引実行の前提条件とし(Stand-Alone MAC)、さらに、直近の財務諸表の基準日以降はMACに該当する事由がないことを表明保証の対象とすること(Back-Door MAC)が多い。他方、欧州型では、MAC条項がM&A契約に含まれるのは少数派であり、むしろ、MAC条項が含まれない方が多数派である。

ここから訴訟問題は一気に泥沼化。アメリカ デラウェア州衡平法裁判所は2021年1月5日からトライアル※4実施を決定します。

※4 トライアルとは?
以下クイン・エマニュエル・アークハート・サリバン外国法事務弁護士事務所より引用

トライアル(Trial)とは、訴訟手続の最終段階、審理手続のこと。
トライアルでは、証拠開示で入手した情報に基づき、訴訟の争点に関係する具体的な事実が明らかになります。また、「トライアル」は日本国内の訴訟における公判に相当。ただし、アメリカと日本の訴訟手続きはことなるため、日本でも翻訳せずに「トライアル」と表現することが多くなっています。

買収合意-完了

2020年10月29日
当初合意に至っていた1株あたり買収額135ドル(約1万4000円)から131.5ドル(約1万3600円)に買収額を引き下げての契約に両者が合意
買収完了の目処は2021年の初頭とした

2020年12月30日にひらかれた臨時株主総会では99%の株主が買収に賛成
翌年の2021年1月7日、約162億ドルから約158億ドルに引き下げられた買収価格によりLVMHのティファニー買収完了

まとめ

買収再考の提案が浮上してから約5か月後、どうなるのことかと注目を集めた激しい訴訟合戦は、意外にあっけなく終結しました。
結局は大幅なプライスダウンにてティファニーを手中に収めたLVMHの完全勝利のような気もしますが、これにてWin-Winてことですね。
LVMHは2022年11月25日には伊ジュエリーメーカーのPEDEMONTE GROUP(ペデモンテ・グループ)を買収し、今後ますますウォッチ&ジュエリー部門を強化していく様子。
冒頭でも触れましたが、ティファニーはグループ入りしてから話題作りに暇がない印象です。新しい歴史を刻んでいくティファニーに大いに期待しています。

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